「なんて自分は不幸なのだろう」「周りの人は楽しそうなのに、自分だけ取り残された気がする」そんなふうに感じたことはありませんか? それは性格や努力不足のせいではありません。実は、脳のクセとしくみが深く関係しているのです。
脳内では、セロトニン・オキシトシン・ドパミンなどの神経伝達物質が働き、それぞれ異なる「幸福感」をもたらします。セロトニンは心身の安定やリラックス感、オキシトシンは信頼やつながり、ドパミンはやる気や達成感に関係します。どのタイプの幸せを感じやすいかには個人差があり、脳内の受容体の感度や数も関係しています。だから人と同じように感じられなくても、自分を責める必要はありません。
しかし情報や刺激の多すぎる現代では、SNSなどで人の成功や楽しそうな姿を目にする機会が多く、私たちの「比較グセ」が過剰に刺激され、幸せを感じにくくなってしまいます。さらに、これも生き延びるための働きですが脳にはネガティブな情報をポジティブより4〜7倍強く記憶するバイアスがあり、つらい出来事ばかりが心に残りやすいのです。
とくに幼少期に虐待やネグレクト、いじめなどの逆境体験があると、脳の警戒システムが過敏になり、「世界は危険だ」「誰も守ってくれない」といった感覚が刷り込まれ、安心や喜びの感度を下げてしまうこともあります。また、親や社会から植えつけられた「こうすべき」「これが普通」といった価値観に縛られ、自分の好きなことを抑え込んで生きていると、心のセンサーが鈍り、幸せを感じにくくなることもあります。他人の期待に応えようと頑張りすぎるほど、自分の本音や感情が見えにくくなるのです。
こうした「感じにくさ」を変えていくには、脳の状態を整えながら、少しずつ体験を通じて自分の好きと得意を見つけていくことが必要です。朝散歩を提唱する精神科医の樺沢紫苑先生は、まずセロトニンで心身の土台を整え、次にオキシトシンで信頼関係を築き、最後にドパミンで達成感を育てることが大切だと説いています。
大切なのは、癒やしと気づきのある「安心できる場」と適切な人とのつながりです。趣味の集まりやセルフヘルプグループなど、同じ経験を持つ人との出会いは、「ここにいてもいいんだ」という実感を育ててくれます。そのうえで、自分の意思で選び、動いてみることも重要です。小さな選択や行動でも、それは自信と自己効力感につながります。
実は私自身も、かつて仕事や生活が忙しく気持ちが沈み、幸せを感じにくくなっていた時期がありました。そんなとき、かつての同僚に勧められてランニングを始めました。短い距離から少しずつ距離を伸ばして、走ることを習慣にするうちに心身のリズムが整い、気持ちも軽くなっていきました。ラン友もでき、数年かけてフルマラソンを完走したときには、驚くほどの達成感と喜びがありました。走ることを通じて得られた、リズムと安定(セロトニン)、仲間との絆(オキシトシン)、目標の達成(ドパミン)による幸福を実感します。
幸せを感じにくいのは、あなたのせいではありません。脳は、これまであなたを守るために働いてきたのです。だからこそ、ただ悩むだけでなく、少しずつ「感じて」「選んで」「動く」ことを、自分に許してあげてください。その力は、あなたの中にちゃんと備わっています。