電子カルテ導入に向けてのあれこれ


今回はクリニックの舞台裏の話。カルテについていろいろ語ってみます。
少々マニアックな話になりますので興味のある人だけお付き合いください。

かとうメンタルクリニックは今のところ紙カルテとメディコムのレセコンで運営されており、カルテは30年以上前の開院のときから使われているB5サイズのものです。その時代はB5が主流だったのでしょうが、今の書類はA4がメインになりました。
精神科なので他の科ほど臨床検査はさほど無いのですが、多くはA4のさまざまな診断書などの書類や他院からの情報提供書、心理検査のレポートなどをどう貼り付けるかなども迷います。しかたなく横に貼ったり、縮小コピーして貼り付けたり、別に保存したりしています。

紙カルテには紙カルテならでは良さもあります。

手書きに関しては私は微妙な書字障害があり、字が字を追い越して転んだりするし、かっちりした書類に丁寧にマスをうめるようなことは非常に苦手です。
一方で図や絵や矢印などをいれて、思考のままに自由に書けるところなどのメリットもあり、実はさほど嫌いではなかったりします。
手書きのもの書いたときの記憶がよみがえりやすいというメリットもありますね。
以前勤務していた病院で訪問診療をしていたころは、患者さんの似顔絵や、家の間取り図、ジェノグラム(家族の関係図)などをかいたりしており、わりと好評でした。

もっともここ最近まで勤務していた医療機関はほとんど電子カルテとなっていたことなどから、紙カルテの場合、漢字がとっさにかけなくなり、いちいちPCやスマホで調べたり、カタカナまじりになったりはしてしまいます。
それでも珍妙なドイツ語がまじったり、自分にしか、自分でも読めない字を書くよりはマシでしょうか。

紙に書いたものは自由に描いたり、パラパラ見るのはいいのですが、ルーチーンのものも自動化できず、事務スタッフが、読みにくい字やハンコを判読して処方や処置、指導料、保険病名など改めてレセコンに手入力する必要があります。二度手間で、そこで転記のミスなどがおきたりもします。
レセコンの維持費や更新費用もかかりますし、診療報酬改定のたびにアップデートが必要です。
また過去のカルテはキャビネットからいちいち出さないと見られず、準備のための人手がとられ、物理的な保存スペースが必要で増えていきますし、紛失のリスクもあります。
せっかく書いたカルテもスタッフ間での情報共有がしにくく、字が読めなかったりするし(自分の字も読めないこともある)、検索やテキスト情報の二次利用(診断書作成など)もできません。

そういうこともあって、今の時代に合わせて電子カルテの導入にむけた情報を同業者やベンダーから聞いたり、数社のデモをみたりといったことをぼちぼち始めています。

さて、カルテ(診療録)というのは保険請求算定の根拠にもなる公文書であり、基本的には患者さんのものであり、本人から開示請求があったときは全て開示しなければならないものです。基本的には診療でのやり取りや処置などを逐次記載しており、SOAP方式で記載するというのが主流となっています。

これは、
・Subjective:患者さんが話したことや書いてきたものなどの主観的な表現などの情報
・Objevtive:診察や外見、表情、検査所見など、客観的な情報
・Assessment:それについてどう考えるか
・Plan:治療、支援方針

という順番に整理して書くという方式です。

本人の価値観が大事な精神科医療においては特に、専門家としてもつ情報や考えを提示した上で、本人の価値観に沿って治療方針なども共に検討して決めていきましょうというスタンスであり、シェアドデシジョンメイキング(SDM)といいます。きちんと対話を継続して納得と合意を得ながらすすめていこうという考え方です。

そういう時代にふさわしい診療録のあり方というのはどういうものでしょうか。

それはきっと医療機関の棚にしまわれているものではなく、患者さんが主体となり、よりアクティブに活用されるべきものだろうと思います。
将来的にはパーソナルヘルスレコードとして医療機関をこえて繋がり、クラウド上と、保険証(マイナンバー)のメモリーに二重にデータが残るようにして同期させれば災害時なども安心でしょう。そして、だれが情報をみられるかの設定は本人ができ、誰がどのような情報にアクセスした人かは本人がチェックできるような仕組みにすればよいとおもうのです。

思い出すと研修医の1年目は紙カルテ+伝票+ポケベルであり、2年目からオーダリングシステムとPHSが導入されました。そのころ指導医の先生方が万年筆をつかっていたので、万年筆でカルテを書くのが流行しました。(そして高級万年筆をかってなくしました)。そのころは珍妙なドイツ語なども残っていましたが、カルテは多職種で活用するものだから分かる日本語で書くように指導されました。
サマリーのみはワープロソフトで作成し、伝票貼りは研修医の仕事でした。

個人的には、楽にできる仕組みを作ったりということは結構好きで、以前いた病院で、3つあったバラバラなアクセスのデーターベースを統合して、ファイルメーカーでリハビリテーションのための多職種でつかえる電子カルテもどきを作り病院のネットワーク上において、共用できるようにしたりしたこともありました。

その後、多くの病院で電子カルテの導入が進み、大学病院が富士通であったため、富士通のものをつかう病院が多いようです。病院によっては独自開発のものや、NECのところもあります。

富士通の電子カルテも悪くはないのですが、もともとレセコンからの発展したもので、改良はされ、多少のカスタマイズは出来るものの、必要な情報が前面に無く、必要なメニューがー階層の奥にあったりして、繰り返しの入力なども自動化できず、ミスを誘発する使いにくいものです。

特に多くの人が関わる大学病院などでは、同じ富士通のシステムをつかっていても、独自の運用がなされていたり、いろいろな部門が現場に入力を要求するものが様々にあり、大量の同意書などの入力、サイン、スキャンを要求され、なぜこんなに使いにくいのだというくらい使いにくくヘトヘトになってしまいます。
診療報酬算定に必要な同意書などの大量のアリバイ書類(縮小でいいと思う)や、ジェネリックに変更したという薬局からのFAXはどんどんスキャンされる一方で、患者が書いたものや患者に説明のために書いたものなどはなかなかスキャンをしてもらえなかったりします。
精神科は書類が非常に多い科です。にもかかわらず書類や診療情報提供書の作成のシステムなども非常に使いにくいものが採用されていました。
ただ、下っ端の一個人では大きな組織の複雑化したシステムに手をいれるのは不可能でした。

このサイトや予約システムもレンタルサーバーを借りてDIYで作っています。(ほとんどワードプレスとプラグインのおかげですが。)患者さんと現場の医療者が使える電子カルテやサブシステムなどを作る仕事もいいかなあと思ったこともありました。
自分で電子カルテシステムをDIYで作ってみたいともおもいましたが、電子カルテなど法的に保存義務のある文書等の 電子保存の要件として、真正性、見読性 及び 保存性の確保の 3つの基準が示されており、 それらの要件に対する対応は 運用面と技術面の両方で 行う必要があり、個人レベルでこれを行うのは今となっては相当難しいです。
まず、改ざんなどがなされていないなどの証明を第三者が担保する必要がありますので。

そうこうしているうちにクリニック用の電子カルテはオンプレミス(サーバーを自前で用意する)のものから、インターネットの常時接続や高速回線の普及によりクラウド型(サーバーを自前でもたずインターネットの先においておくSaaS)ものが実用的となってきたのが、ここ数年の動きです。

いろいろ試してみると、ベンチャー企業がこの領域に参入し、医師などもかかわって開発したブラウザからSNSのようなインターフェイスで使える使い勝手の良い電子カルテもふえてきています。
クラウド型の電子カルテはどれも、インターネットに繋がったPCでブラウザから利用でき、訪問診療先や自宅からでも閲覧や記載ができます。保険請求するレセコン(レセプトコンピュータ)も内包化、一体化されているものもあり、たくさんのクリニックで使われることで安価に供給できるというビジネスモデルで、日々改良されているようです。

これらを使えば医師だけのワンオペクリニックも不可能でもないといいます。

ただ初期投資を抑えた月払いのサブスクリプション型とはいえ、一度始めるとなかなか他のものにスイッチするというのは難しいので、導入にあたっては慎重に選ぶ必要があり、同業者に聞いたり、いくつかのデモを試したり、オンラインで説明を聞いたりしています。

iPadで手書きや写真の取り込みもできたり、AIで禁忌や保険病名も自動的にチェックなどもできたりもするものもあり、予約システムや問診システム、アプリで患者と繋がれるシステム、そのままオンライン診療のシステム、自動会計機や決済システムと連動したりもできるものもあったりします。

精神科クリニック向けの専用カルテでは、精神科ならではのサマリーを作成する機能やディケアに特化した機能もありますが、このあたりはどのみち自分でサマリーをつくるのだから、初心者以外はかえっておせっかいかもしれません。でもテンプレがあれば抜け落ちない、多職種でよってたかって完成させて、必要な情報があつまるという運用もできますね。
そういった情報をもとに診断書作成をアシストするというのを売りにしているシステムもあります。


さて、自分の診療スタイルはグラフィックファシリテーションの手法をもちいてホワイトボードに描きつつ対話をする。ビジュアルに来談者のSを整理し、AとPを共有するというものです。立って動きながらホワイトボードに描くというスタイルが多動な自分に合っていて気に入っています。

そしてホワイトボードの写真をカルテに貼り付け、来談者にも印刷して渡したりスマホで撮ってかえってもらったりもします。
ですので、電子カルテ上でも、ホワイトボードを写真にとったものを画像として保存できれば一番都合がいいなあと思います。

あとは本人が書いてきたものや、学校や福祉事業所など外部とのやり取りも取り込め、心理面接や、心理検査、臨床検査、ディケアの様子や訪問看護などの様子など多職種の関わりが全部入力、保存でき、時系列と種類別に自動的に生理され、関わる多職種がすぐに閲覧できれば十分です。
精神科ではそういった情報をもとに様々な角度からアセスメントをおこない、対話を通じて、治療や支援の設計図をつくり、本人や支援者と共有します。

そして、特別児童扶養手当、精神保健福祉手帳、障害者自立支援法の医師意見書、就労のための意見書、障害基礎年金、成年後見人の診断書、鑑定書、傷病手当金、運転免許や猟銃免許のために警察に提出する書類など必要な診断書や意見書をせっせと作成します。

こういった書類を書きやすいシステムも大事ですが、これは氏名や生年月日、住所などの基本情報をワードなり、エクセルのテンプレートに引っ張ってきて、後はサマリーを貼り付けて、必要な分だけの体裁をととのえて書類を作成できれば十分といえば十分です。

カルテを含めたシステムは日々使う道具であり、いろんな情報をためておいて使えるように整理していくのが医療の一つの役割です。
こだわって選びたいですね。





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