ASDの人が職場で求めたい配慮について

コラム


神経発達症(発達障害)があると認知特性(特にASD)や行動特性(特にADHD)が多数の人と異なる部分があります。その特性が活かせる場面もあるのですが、出来る仕事が限られてしまう場合もあります。

しかし、ちょっとした配慮でずいぶんと力を発揮しやすくなります。
患者さんとの間に入って職場に対して説明を求められることが結構あるので、職場でもとめたい配慮について一般論ですがまとめてみました。
実際は、その際でもできるだけ直接やりとりできるように対話を促し、対話の方法を示すことがおおいです。個々の方の特性や配慮に関してはさらにカスタマイズすることは必要ですが、ベースとして参考にしてください。
学校などとも基本的には同じですね。

なお、札幌市のつくった小冊子「発達障がいのある人たちへの支援ポイント「虎の巻シリーズ」」はよく出来ており、ダウンロードして印刷も出来ますので特性や合理的配慮の説明を求める際に職場でまずシェアしてもらったりします。


感覚の違い


ASDがあると世界を感じ取るセンサーが多数派の人と異なり、様々な感覚の過敏な部分、鈍感な部分がまだらにあったりします。結果として多数派に気づかないことに気づいたり、気になったりします。

それこそが多様性であり、特異な能力として強みになる場合もあります。
しかし、社会生活上、苦しさを引き起こすだけの場合、役に立たないような場合もあります。

感覚の多様性は、こだわりといわれるものの原因のひとつでもあります。
感覚過敏はなかなか慣れたり変化したりするものでもないと言われています。
また本人にとって見通しがもてず不安の強い苦しい状況だと感覚過敏は強まることもよくあることです。

雑音の多い場所、さまざまな声が入り交じる場で音が聞き取るのが大変だったり、臭いが気になったり、気圧や気温など環境の影響を受けやすいなど、過敏さが疲れやすさにつながったりします。

そして外部に対しては敏感すぎるな一方で自分の身体感覚や疲れ、感情のリアルタイムの読み取りが苦手だったりもします。

こういった感覚の個別性に関しては感覚に配慮した個別の作業スペースや休憩スペースを用意したり、ダウンタイム(休憩時間)を保証したり、サングラスやノイズキャンセリングイヤホン、イヤマフなどの自助具をつかうことでずいぶん楽になることもあります。

専用個室を用意することは難しくても、パーティションや時間の使い方、席の配慮、業務上危険のないかぎりこういったツールをつかうことで疲れにくくなるなどパフォーマンスを上げることができます。
コロナで広まってきたリモートワークは自宅で自分にあった環境やスケジュールを作り込みやすいため、うまく集中できる環境を作れる場合が多いです。

興味やモチベーションの違い

先程の感覚の違いと関係している部分もあるかと思いますが、好きなものや嫌いなもの、興味を持つ部分も多数の人と異なります。
興味はマニアックに細部に入りこみ、狭く深い場合が多いです。
好きなものや嫌いなものが多数派とはちがうので彼らには「自分がされて嫌なことを人にするのはやめよう、自分がされて嬉しいことを人にしよう。」という言い方ではなかなかうまくいきません。

特に人付き合いや社会的なことにはさほど興味もモチベーションがないことが多いですが、興味を同じくする人とはすぐに繋がれたりします。
もっともマニアックなためなかなか同好の士にあえません。時間や空間をこえて同好の士と繋がりやすいインターネット、特にSNSは助けになりますね。

そして自分のこだわりを満たすこと、気がすむということへの優先順位が高すぎて周囲と衝突しがちです。

そういったこだわりが仕事上などの成果につながることもありますが、周囲と衝突して上手くいかない原因になることもまた多いでしょう。
本人の言うことは部分だけ見れば「たしかにそう(正論)なんだけども・・」、全体をみればズレているということもあります。わがままのように見えるため、周囲からは理解しづらくトラブルになりやすい部分です。

また多数派が文脈(コンテクスト)を共有し苦労せずに読み取れている社会的情報(ソーシャルインフォメーション)の基本的な読み取りにおいてズレが生じやすいです。
多くの人が自然に身につけることができる対人関係のスキルを、情報として意識して学ばないと身につけられなかったり、必死で読み取らないと分からなかったり、そもそも興味がなかったりします。
それが他者の権利を侵害しやすかったり、自分の権利が侵害されやすかったりということにも繋がります。

そして見通しが持ちづらい状況で思っていた流れとちがうと、パニックになり、不安からさらにこだわりが強まったり、周囲に攻撃的になるなど冷静にコミュニケーションすることが難しくなります。

このように対人関係の中で上手くいかなことが重なると、孤立感や見捨てられ不安から被害的な認知となりやすいです。

そして理不尽な体験は感情とともに記憶にのこりやすく、記憶力が良すぎる部分とあいまって苦手なものは増えやすいです。
失敗体験を繰り返すと世界に向けてストレッチすることを結果的に諦めてしまい自閉することになります。
周囲の人はきちんときいて、きちんと伝える対話が必須であるというゆえんです。



情報処理の違い

そもそもの外部のセンサーから流れ込んでくる情報の質と量、意味付けなども多数派の人と異なったりするので、そのなかから社会的な文脈を多数派の理解にあわせて分析するパターン認識をするために脳をフル回転する必要があったりします。
それでも処理しきれなかったり、ズレてしまったり、時間がかかったりします。
リアルタイムの相互的な会話についていけなかったり、1対1の会話ならなんとかできても複数の会話だと混乱したり、指示などもいっぺんにいわれても処理が追いつかず理解できないことがあります。
その処理だけで、ヘトヘトになってしまいます。

こういったコミュニケーション処理のためにリソースを消費するのはお互いに大変です。

ASDの方の第一言語は視覚的なやりとり(文字情報の交換も含む)ですから、本人の受け取りやすい方法、特に視覚的に示していただけると、見えない部分を見ることができ、自分のペースで焦らずに処理していくことができるので、ずいぶんやりやすくなります。

コミュニケーションは、感情などが乗りやすく、消えてしまう音声でのやり取りは少なくしていただければとおもいます。
メモやポストイットなどを介したやりとり、メールやLINE、Slackなどのビジネスチャットなどに統一しただけで職場のいろいろな問題が解決したという方もいました。

教育現場などでは使われるようになってきましたが、周囲の方が伝え方のコツを学ぶにはおめめどうのコミュメモ、巻カレンダーなどもおすすめです。
こういったツールを使ってほしいと合理的配慮として使用をもとめることもあります。
このあたりから初めて、双方が使いやすい手帳やICTツールなどに進化させていけばいいのです。

そういう方も本人のペースやスペースを尊重して文字などでやり取りすると常人を超えた深い思考に至ったり複雑なやりとりが出来たりしたりもします。
(思考が深すぎて今度は多数派には理解できる人もすくないかもしれませんが)

コミュニケーションは丁寧に、指示や見通しは明確に

そんなASD特性の強い人は多数派の人から見ると話が通じず、またマイペースすぎたり、こだわりが強すぎるように見えるでしょう。
それはASD特性の強い人からみても多数派と話が通じないと感じているのですが、そもそも自分が少数派であることに気づいていないと、おかしいと言われうまく行かない体験を繰り返し、自分や世界を嫌いになってしまいます。


「適当」「いい加減」がわからず、曖昧な指示だと独自の理解をしたままで、コミュニケーションの苦手さとあいまって、ズレたままつきすすみ失敗することがあります。
例えばクオリティが過剰なものを時間とエネルギーをかけて作り込んでしまったりするなどのことも多いです。
さらに自分自身の疲れや感情にも気づきにくいため、やりすぎてしまい疲れ果ててしまうなどで気分の波も起きやすいです。

これは芸術家や職人など個人でやっている場合ならいいのかもしれませんが、チームで動いている場合は周りの人をいらつかせることになりがちです。

特に慣れていないことや見通しがつかないことに関して、周囲に合わせて臨機応変に動くことが極端に苦手だったりします。「思っていたのとちがう」という苦痛が何倍、何十倍も辛いのです。パニックになって悪循環になっていることもありますね。

見えるものは気になりすぎ、見えないものは想像できない、あるいはズレた想像をしてしまいやすい。
できるだけズレないようにするためには丁寧な対話的なコミュニケーションを密にとることが大切です。

仕事上の指示に関しては、上司や依頼主は優先順位、期間、クオリティ(測定可能な指標)、見通しなどを視覚的に明確に示すことが必要です。仕事の意味や背景、必要性なども見えるように説明して本人が納得すれば、場合によってはこだわりや独自の視点を活かし想像以上のクオリティの素晴らしい仕事をすることもあります。

文化のちがう国から来た人にもわかりやすいマニュアルを示すようなつもりで、あるいは文化のちがう企業と契約書を作るようなつもりで丁寧なコミュニケーションをとる必要があります。

そしてズレが生じそうなときには一般常識を期待したり、周囲との協調性や、感情を察することを求めたりするよりも、本人の言い分を聞いた上で、本人にとってのメリットを中心に話したほうが上手く動いてくれると思います。

本人と職場の双方が、通訳的な立場になれる第三者である主治医や外部支援者(就労支援ワーカー、ジョブコーチなど)と適宜連絡を取りつつすすめていける体制をつくっておく安心かとおもいます。

休養や体調管理、余暇活動も大切

職域においてはどうしても他者との協働や、少々の不条理へのスルーがもとめられる場面もあります。
組織の中では、自分のこだわりを出してつくせないポジションにいざるをえないことも多いでしょう。

ですので、仕事を続けるためにも、まずは自分の健康やプライベートライフは大切にして、休養や休憩は十分にとることも大事です。
そして自分の時間やお金を自分の責任で注ぎ込み、存分にこだわり尽くせる趣味や余暇活動などを持っておくことも重要になります。

たまたま今の社会と自分の特性のマッチングが今ひとつの場合もあります。
それぞれの幸福追求と、健康で文化的な生活をするための最低限の基盤をととのえるために、あるいは自分に合った環境や配慮をもとめるために必要なら精神保健福祉手帳や障害年金の利用も考慮してみてください。
発達障害の支援が得意なデイケアや就労移行支援事業所の利用も有効かと思います。

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