ナビとなり定期点検のためにつながりつづける

5月15日(土)は信州大学子どものこころ診療部セミナーでした。

今年度は「軽度知的障害におけるライフステージごとの課題」というテーマで群馬県安中市の桐の木クリニックの有賀道生先生をお招きしました。
重度知的障害をともなうASDの医療〜特に強度行動障害に関して」をテーマにした昨年に引き続き、企画や運営に関わらせていただきましたが、実のところ今回も私自身が、今一番学びたいテーマなのでした。

前半は有賀先生にレクチャーをいただき、後半は参加者からお寄せいただいた質問をもとにした本田秀夫先生との対談という豪華な構成。

新型コロナウィルスの流行拡大により、残念ながら集合研修は難しいとの判断で、講師の他は子どものこころ診療部の関係者のみで教室のすみにスタジオをつくってライブ配信をしました。
こういうのがほとんどコストをかけずに手軽にできるようになったのはいい時代ですね。

V字に配置した机にアクリルパネルを配置、感染対策には抜かりがありません。
ただ、大学の講義室でのWifi環境がリハーサルのときほどスピードが出ず、途中から予備のものに切り替えるまでの前半30分程度、画質がよくなく、音声も途切れてしまった部分があり、講師および、参加していただいた方には申し訳なかったです。



こちらから視聴登録していただければ、2021年6月20日までアーカイブの視聴ができますので、よろしければ期間内に御覧ください。

さて発達障害者支援法ができ、特別支援教育がはじまり、自閉スペクトラム症(ASD)やAD/HDなどの発達障害は以前と比べてもその特性についての理解が広まり、ずいぶんと必要な合理的配慮や支援が得られるようにはなってたと感じています。
しかしその一方でまだまだ軽度知的障害は気づかれにくく、親も本人も認めにくい、そして結果として後手後手となりやすく、また制度や支援の間に落ちやすい障害であると感じています。

有賀先生の講義では

  • 知的軽度障害は増加している:ASDの認知度が高まったことにもよる
  • 幼少期はほぼスルー:表面上「問題行動」が少ないため
  • 学童期以降様々な問題が:いじめ、虐待、体罰、経済搾取など
  • 司法関与~支援拒否:迫害体験との関連、「障害」否認
  • 医療上の問題:多彩な精神医学的症状、慢性経過、身体健康問題

といったことが挙げられていました。

国立のぞみの園や少年院などで経験豊富な、有賀先生の診療のスタンス、スタイルなど非常は参考になりました。

なにより彼らとともに「一緒に悩んだり笑ったり泣いたりしてくれる人が、ちゃんと居てくれる」ということが大事だということで、私のやってきたスタイルは大きくはずれてはなかったなあとおもうとともに、足りなかったところも見え、今後の診療を考える上で非常にヒントになりました。

医療の立場から、この領域で何が出来るかというのがずっとテーマはあるのですが、これも有賀先生は以下のようにまとめてくださいました。

  • 医療は「健康」を焦点にした援助が基本
  • 身体健康、精神健康それぞれの援助が必要
  • 学童~思春期~青年期でのメンタルヘルスの問題(特に精神病症状、身体化など)は 発達障害の有無(知的能力を含む)と迫害体験(トラウマ)について要評価
  • 成人期における慢性的な精神および身体的不調(倦怠感や意欲減退など)は軽度知的障害を背景とした対処能力(特にコミュニケーション能力)の制約があることが少なくない
  • •経済困窮による精神健康上の問題(特にうつ~自殺企図、アルコール問題~暴力)は 福祉に迅速連携したい

やはり医療の役割は健康上の問題を中心として関わり、アセスメント能力を高めて治療できるものは治療し、できないものは連携して支援していくことが主にはなりますが、時には度胸をもって医療のワクを超えたあらゆる相談にのりまずは繋がり続けるというところが大事だそうです。

特に頑張れと言われ続け辛い目に会い続けていると、自分は障害者ではないから福祉的支援は受けたくない。手助けを受けることは劣っていることと認めることだから、今までバカにしてきた人たちの手など借りたくないとなってしまうことがあります。でも困っているので障害年金はもらえないだろうかというような方はたしかに多い印象です。
医療にも繋がりたくないけど仕方なく、なのでしょうか。

幼少期からさんざんマウント取られ続けて、対立か服従かのパターンになってしまった方などに、フラットに接して、視覚的手段もつかって恋愛や進学なども含めた日常の細かな相談に乗り、わからないことは「わからないから宿題にさせて」などと率直に接して、本人が周囲はすすめるが福祉サービスを受けたくないという場合でも、将来使うときがあるかもしれないからうまくやる戦略(処世術)を打ち合わせる(作戦会議)というスタンスで、参謀、あるいはナビゲーションとして伴走する。
一緒にメリットとデメリットを整理し、必ず本人に選んでもらい、本人が選んだあとも放っておかないというメッセージを伝える。
ですが、時には「医者として言わせてもらう」など少し斜め上のポジションも利用する(少年院などではよく使うそうです)こともある、などはなるほどなあと思いました。

二次障害を予防するためには、幼少期からの継続的な親支援、思春期頃からの本人支援は本当に大事で、特に今現在は問題がなくても、ナビゲーションとして、あるいは予防的に車検のように定期的につながっておくということも必要です。

診療のブラッシュアップをしていきたいですね。

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