障害基礎年金の申請について

20歳時点での障害基礎年金の申請について相談を受けることが多いのでまとめてみました。初回の年金診断書料は他の診断書に比べて高め設定しておりますが、当院通院中の方に関しては申請のアドバイスやご相談にものれますのでお気軽にご相談ください。

生存権、幸福追求権を支える制度、必要な人は積極活用を

日本には障害のある方の生活保障のために障害年金という制度があり、生活障害のある知的、発達障害の方、精神障害の方には、生活のベースの経済保証としてこの制度を利用している方が多いです。

私個人としてはすんなりと社会に出ていくことが難しい知的・発達障害のある20代の若者は、親ではなく社会の力をかりて自分の選択で試行錯誤していくために、全員に年金を若者手当として支給してもいいくらいなのではと考えています。
しかし、残念ながら日本の社会保障は申請主義ですので、自分で申請しないとどんなに障害が重度でも、どんなに困窮していても決して支給されることはありません。

障害年金は、障害基礎年金と障害厚生年金という2階建てとなっていますが、今回は主に、障害基礎年金を20歳時点で申請する方法について説明させていただきます。

20歳時点で障害年金を申請される方は、18歳で就労し、厚生年金をかけていたときに障害をおったり発症してという可能性は全くなくはないでしょうが、ほとんど障害基礎年金での申請になると思われます。

障害基礎年金には1級と2級があり、それぞれの年金の支給額は以下のとおりです。
ちなみに障害年金の級は療育手帳や精神保健福祉手帳の級とは全く関係のない別の制度ですのでご注意ください。

1級 974,125円 (月額81,177円)
2級 779,300円(月額64,941円)


さらに18歳未満の子どもがいる場合、加算があります。
ちなみに障害厚生年金には3級というものがあり、より軽度の障害でも受給の可能性はあります。働けていると3級になるようです。
障害基礎年金に関しては、たとえ就労していたとしても就労継続B型事業所などの工賃だけだったり、就労継続A型事業所や特例子会社、障害者雇用でも月数万円程度など低賃金の場合は2級で受給可能のようです。この場合は就労の様子や、収入の記載、職場でどのような配慮をうけているかなどについて診断書への記載が求められます。
就労状況についての証明を添付書類でつけてもいいようです。

障害年金申請を考えたらまずすること


障害年金の申請を考える方は、主治医に相談していただき、お住まいの市町村の障害福祉課・年金係か、「日本年金機構 松本年金事務所」に相談にいかれることをおすすめします。
そちらで受給要件や手続きについて相談でき、申請に必要書類一式をもらえると思います。(障害年金キット)。
障害年金を申請される場合、初診日証明(診断書作成機関と違う医療機関での初診がある場合)と申立書、医師診断書の提出が必要です。

これらの書類はいづれも手書きのものですが、申立書にしろ診断書にしろ、同じ様式の雛形をパソコンで作成し、プリントアウトしたものでもいいようです。
クリニックで発行する診断書は同じ形式にPCで作成しプリントアウトしたものにサインと捺印したものをお渡ししていいます。

年金専門の社労士にも申請代行依頼できますが、自分でも可能です

年金を専門とする社労士に申請代行を依頼される方もいますが、知的、発達障害の方が20歳時点で申請される場合に関しては、比較的シンプルですので自分(親)でも十分申請できると思います。

社労士に依頼すると初診日証明を取り寄せたり、聞き取りを元に申立書を作成してくれたり、医師の診断書作成のための日常生活の様子をまとめた資料を作ってくれたりしますので、経過の長い精神疾患で、様々な医療機関にかかっていたりして初診日がはっきりしないケース、遡及請求を考えるケース、不支給決定となり不服申請を考えるケース、受給できるか際どいケース、作文の苦手な方などは相談されると良いでしょう。
基本的には成功報酬(2〜3ヶ月分など)で最初の相談は無料のところが多いです。

松本市近辺ではトレジャー年金コンサルティングわかば障害年金オフィス、長野市では佐藤奈己社会保険労務士事務所などが障害年金を専門とする社労士事務所として開業されています。

申立書は自分で作成しなければいけません

さて、社労士に申請代行を依頼しない場合、申立書は自分で作成しなくてはなりません。

申立書は年齢を3〜5年で区切って、受診歴やその時の症状などをかいていくものと、現在の状況を書く書類の2枚があります。知的障害の場合は区切らずにいっぺんに書いても良くなったようですが、たいていの方は未就学時、小学、中学、高校・・などと区切って書かれています。
申立書の作成は子どもの頃からの経過を思い出したり記録を元に大作文していくため、けっこう精神的にも大変な作業だとおっしゃる親御さんもいます。
小さな頃から母子手帳やサポートファイルなどに情報をまとめていると作成はしやすいとおもいます。申立書の作成に関してクリニックの方でも、カルテ情報の共有、書き方のアドバイスやチェックなどでお手伝いすることは可能です。

なお、診断書を依頼する際に、過去の医療機関への受診歴や障害の程度などをすり合わせるために、下書きの段階で結構ですので、できるだけ申立書のコピーをつけていただければ助かります。

また過去に医療機関や教育機関で行われたWISCなどの知能検査の結果を、また児童相談所などで療育手帳をうけたりしている場合は、手帳の級及び手帳の判定のために施行した知能検査(大体は田中ビネー式)の結果も問い合わせれば教えてくれますので、入手した上で主治医にもお伝えください。

診断書は20歳の誕生日の前後3ヶ月以内の現症が必要ですので、その期間内に必ずご本人が受診していただくことが必要です。その日の現症を書いた診断書と、自分で作成した申立書などの書類を揃え、20歳の誕生日を迎えたらすぐに申請するのが一番早い申請方法になります。

障害年金の申請のためには初診日が大切になりますが、知的障害として申請する場合、実は生まれた日が初診日となります。ということは知的障害で申請する場合は初診日証明は不要であり、20歳時点で申請する場合、申立書と20才時点での診断書だけで申請が可能となります。つまり理屈としては、これまで知的障害として医療に一度もかかっていなくても、20歳時点での受診で申請は可能です。

特別児童扶養手当と障害年金の関係

ところで、申請人が特別児童扶養手当の支給対象になっている場合は、「特段の事情がない限り、特別児童扶養手当の認定に用いられた診断書の写し等を関係主管課から徴求し、障害の程度を確認して差支えない」旨の通達が存在しており、障害者年金申請の時、20歳前の最終の特児の診断書が2年引き継がれるそうです。

そもそも特別児童扶養手当の診断書は年金の診断書に似せられてつくられており、さらに今後は発達障害に対応するため、また障害年金制度と整合性を保たせるために診断書様式の改定も予定されているようです。

こういうことを考えると、新たに所定の診断書を作成し提出する必要はなく、たとえば療育手帳A1の場合は自動的に障害基礎年金1級の認定、療育手帳Bで特別児童扶養手当2級を受給している場合2級の認定などとしてもよいように思いますが、実際に特別児童扶養手当の診断書の写しで障害基礎年金の申請をしている人はみたことがないです。

考えてみると療育手帳Aの場合は、そもそも特別児童扶養手当の申請のための診断書は不要ですので特別児童扶養手当の認定に用いられた診断書の写し等に当たるものが何かわかりません。また療育手帳Bの場合は特別児童扶養手当の診断書の写しを手に入れて提出しても、20歳時点で就労出来ている場合などは、あらためて申立書と診断書を作成しないと不支給決定になる場合もあるかもしれません。
(とはいえ特別児童扶養手当の写しがある場合はそれで申請するのもありえますので年金事務所などにもご相談ください。当院で特別児童扶養手当を申請していた場合は写しをお渡しできます。)

18歳から20歳の間は制度の狭間で支援も少なくいろいろ大変です。もうすこしシンプルな制度にすべく政治家や官僚にはぜひ頑張ってもらいたいと思います。

初診日証明、申立書、診断書を揃えて申請

かかりつけの小児科や内科などの医師がいても、発達を専門としていない場合、知的・精神障害の障害年金の診断書は書くのは慣れておらずなかなか難しいと思われます。

もし療育手帳を所持されている方で、医療から長らく離れており、診断書作成を依頼できる主治医がいない場合に障害年金の診断書作成にあたっての受診も承りますので一度ご相談ください。
本人の障害状況からして明らかに受給が難しい場合はその時点でお伝えさせていただきます。
ただし申し訳ありませんが当面、地元、長野県中信エリアの方に限らせていただきます。

一方で、知的障害をともなわない発達障害だけの方の場合は20歳以前に初診日証明が必要になり、関連のある症状があって初めて診察を受けた日が、初診日となります。そのときにかかっていた医療機関に依頼して初診日証明を取り寄せておいてください。(受診歴があり、カルテが残っていれば事務的に発行してれます。)

申立書や診断書には症状や発達障害にともなう日常生活上、就労状況上の苦労、感覚過敏などに関する具体的な記載が必要です。
参考資料として職場での状況のまとめた書類や、社会生活能力の標準検査のVinlandⅡなどの社会生活能力の検査結果や感覚の検査Sensory Profileなどの結果を添付する場合もあります

これらの書類をそろえて提出し、3〜4ヶ月の審査を経て、めでたく年金の支給が決定されると年金証書が自宅に届き、2ヶ月毎に指定した銀行口座に振り込まれます。振り込まれる年金は親のものではなく本人のものですので、本人の生活、幸福追求のために本人が使えるようにしてくださいね。

本人名義の銀行口座も早めに作成しておいてください。
とくに知的の重度の方の場合、成人になると本人でないと口座は作れなくなりますので子どものころから保護者が本人名義の通帳を作っておくといいでしょう。

障害が重度で回復の見込みがないと判断された場合は生涯更新なしとつく場合もありますが、最近は最重度の知的障害でも初回は数年先に初回の現況届の提出をもとめらることが多いようです。
ただ、いっとき厳しくなったあと、それはさすがに行き過ぎと変わってきてはいるようですが・・。
更新の際には障害の程度、就労の状況や生活の様子を書いた診断書(現況届)の提出が必要になりますので、支給が決定され年金証書が届いたら主治医に等級と次回の更新日について是非お知らせください。

年金が不支給になる時


なお、20才時点での障害年金を申請した場合、前年の所得額が4,621,000円を超える場合は年金の全額が支給停止となり、3,604,000円を超える場合は2分の1の年金額が支給停止となります。
最近はマイナンバーや市町村税からの所得は把握されているようです。Youtuberやアーティストとして成功したりすればありうるでしょうか?

知的障害で生涯認定される場合もありますが、最近は審査がしぶめで、1〜5年後に現況届(医師診断書)をもとめられる場合がほとんどです。期間は年金証書に記載されていますので、支給決定されましたら次回の現況届を出す日をクリニックにお伝え下さい。なお更新時には申立書は必要なく、基本的には現況届(初回の診断書に似ているがやや簡略化された診断書。当院では2回め以降は5000円に設定しています。現症の他、過去5年間の受診歴と、過去1年間の様子を記載)を送り返すだけです。
現況届の提出を忘れてしまうと年金支給が止まることがあります。

知的・精神の障害の場合、現況届に就労状況や収入を書く欄があるため、障害者雇用であっても家族の扶養から外れ社会保険に入れるくらいの収入があり、安定した雇用体制のもとで就労が安定的に継続できている場合は不支給になる可能性もあります。収入がある程度以上あり、安定した就労が継続できているか、ボーナスが貰えているかなどが見られているようです。
その場合でも一応、現況届は出しておき不支給決定をもらっておくのが、もし仕事が継続できなくなり年金が必要となった時に再開できるのでいいようです。

身体障害の場合、収入を書く欄はないので見える障害と見えない障害というだけで差別といえば差別なのですが・・。

中途での精神障害の場合

ちなみに他の精神障害での障害年金受給に関しても少々のべておきます。

納付要件や初診日が曖昧だったり、いろいろな医療機関を受診してきたり、働けたり働けなかったりしていた方は年金を専門とされる社労士さんに相談しつつ申請していったほうがいいかもしれません。

自己治癒が難しい精神病圏(統合失調症や双極性障害、慢性のうつ病)、てんかんなどは、受給できることが多いですが、自己治癒の可能性のある神経症圏(適応障害、不安障害、強迫性障害、パニック障害など)は原則、受給できません。
また依存症などもなかなか難しい印象です。おかしな話ですが・・。

ただし、神経症でも精神病態(変な言葉ですね・・。精神病のような病態、あるいは自己治癒の可能性がないほど重度ということでしょうか)を呈するものは受給の可能性があるようです。

さて、障害基礎年金を受けるためには、初診日の前日において、次のいずれかの要件を満たしていること(保険料納付要件)が必要です。

(1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
(2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

つまり大半の期間、あるいは直前の期間、きちんと年金の手続きをし、納めていたかということが大事なようです。
そして初診日から治療を継続した上で回復の可能性や治療の反応性をみて1年半後が治癒(障害固定)として、障害認定日となり、そこから年金が支給されます。
障害認定日が5年より前にある場合、5年前まではさかのぼって請求(遡及請求)することができます。この場合現在の診断書と、障害認定日の時点(前後3ヶ月以内の受診時の)での診断書の2枚必要になります。

しかし精神障害があると、20歳時点からそういった免除の手続きや、きちんと納付するということがそもそもできていないことも多く、初診日に残念ながら納付要件を満たさないということもあります。
紙ベース、自己申告ベースでやっているから、どうしても抜け落ちる、というか、消えた年金問題の結末などを鑑みるに、きちんと年金機構が情報を管理しているかすらもこころもとないですね。

政府は税金を取る方は必死で管理していますが、こういった社会保障こそマイナンバーできちんと管理して、必要な人には漏れなくプッシュ型で届くようにしてほしいところです。多少の救済措置はあるようですが、最終的には生活保護に頼るしかなくなります。

このように、障害年金というのは、現状ではかなりテクニカルなところが多くややわかりにくい制度になっています。
できれば障害者施策として総合的、包括的に手帳制度などと連動させ、年金や障害福祉サービスなどの社会保障制度も統合して、よりシンプルで、漏れなく使える制度にまとめてくれる官僚や政治家の活躍を期待したいところです。






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