WISCなどのアセスメントをどう支援に活かすか

今回は専門職向けのテーマですが、よろしければお付き合いください。

何のためにWISCをとるのか

学校での何らかの不適応などがあると、不登校支援や特別支援の先生からは、WISC(ウィスク)はどうですか?(まずはとってから、とらないのですか、とりましょうか、とったのですが・・)といわれることが多いように思います。
ちなみに今現在のところ、当クリニックではWISCはとれません(成人用のWAISはとれます)

WISCとはいわゆる知能と呼ばれているものをみるウェクスラー式知能検査のファミリー(WIPPSI、WISC、WAIS)の児童(5歳〜16歳11ヶ月)対応版であり、義務教育年代でとられる知能検査としては最も標準的な検査です。
「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQ(知能指数)を数値化する検査で年齢で標準化されたものです。(平均が100)

いろいろなことがわかる優れた検査ですので、頼りたくなるのは分かるのですが、なんでもまずWISCからというのも違うなあとおもっていました。
またせっかくとった検査結果が支援にうまく活かされていないと感じることもありました。

今回、松本市特別支援教育研究会が企画した「特別支援教育セミナー IN 松本 2021 WISC-IV検査のより実践に結びつく解釈と支援用法について」(大六一志)先生の講演会がオンラインで開催されると聞いて、興味のあるテーマでしたので参加させていただきました。

大六先生は日本版 WAIS-III (16歳〜89歳用)や日本版WISC-IV(5歳から16歳11ヶ月用),日本版 WPPSI-III(幼児用) の刊行委員を務めており、アセスメントや特別支援教育、教育相談などで全国でご活躍の先生だそうで、5時間くらいのセミナーのエッセンスを1時間半に凝縮したとても濃い内容のお話でした。

WISCの細かな解釈などはマニュアルや他の文献を参照いただくとして、個人的に印象に残った部分をまとめてシェアさせていただきます。

WISCをとるとき「強いところ、弱いところを知るため」と 説明する検査者・支援者が多いようです。
しかし、そもそも アセスメントの目的は、子どものつまずきの原因と対策を知ることです。
つまり本人の困り感から出発して、その原因を診立て、その後の手立てにつながらないと意味がありません。

WISCの話でありながら、WISCの弱点や、WISCだけでつまづきの原因がとらえられない場合は、必ず他の検査なども実施して原因を追究するべきというところから話がスタートでした。
WISCは完成度が高い標準化された知能検査ではありますが、あくまで詳細な問診や、観察、さらに検査バッテリー(組み合わせ)のひとつであるということです。

WISCは知能をみる検査であり、性格特性、行動特性、創造性や感情、社会性、社会的認知,対人能力,コミュニケーションスキル、運動能力、情報処理過程(経時処理、同時処理)、メタ認知、問題行動の直接の原因(ABC分析などの機能的アセスメント)などは分かりません。

またいわゆる知能といわれるものの領域(CHC理論にもとづく)であってもWISCで測定できない領域もあるようで、特に結晶性能力のなかのリスニング力、文法感受性、聴覚処理(リスニング処理)、長期記憶と検索、そして読み書きなどはWISCでは測定できない部分だそうです。

ですので残念ながら「読み書き障害」はWISCではなかなか分かりません。
読み書きなどの特異的学習症(学習障害、LD)のアセスメントに関しては、LCSAやKABCⅡ、WAVES、STRAW-Rなど他のものを組み合わせてということが必要になってくるようです。

このあたりの詳細アセスメントにはそもそも保険適応がないものがほとんどで、専門性を考えてもこれら学習障害まで医療の中でやるとすると大変です。大阪医科大学のLDセンターなども私費の自由診療のようです。
総合教育センターあたりが音頭取りして、必要な方には教育の枠組みの中でアセスメントと支援をしていただければとおもいます。

また、WISCはASD(自閉スペクトラム症)をアセスメントするためにつくられた検査ではありませんから、ASDに関してはWISCで疑うと言うよりは他の検査などで疑ってから、WISCの結果を解釈するというのがいいとのことでした。

ASDを診断するのに、エピソードと現症であたりをつけて、必要ならPARSやMSPA、また社会性をみる検査(SM式社会生活能力調査やVinlandⅡなど)、興味やコミュニケーションスタイルをみる検査(AQやPFスタディ、サリーとアン課題)などということになりましょうか。私費で高価なプライベートクリニックでもなければ臨床の現場では現実的にはゴールドスタンダードであるADOS2やADI-Rをおこなうというわけにはいきませんし。診察だけでも十分わかり、伝えられ、状況が改善していく場合は、詳細なフォーマルアセスメントまではしないことも多いです。ADHD(注意欠如・多動症)に関しても同様です。

検査は問診や診察で絞り込み必要なものだけ絞り込み意図と目的をもっておこなうこと、そして検査の結果を活すこと。これは医師は研修医のときに叩き込まれるやつですね。
スクリーニングは別として、絨毯爆撃的にやみくもに検査をオーダーしたり、検査をやりっぱなしで、をきちんと解釈して治療に活かさないと怒られます。
発達領域でも、エピソードや観察をもとに仮説をたてず必要な支援をいれていきながら、順次必要な検査をおこない、診立てをブラッシュアップして必要な支援を考えていきます。

医療ではこのような考え方は馴染んでいてすっと入るのですが、このあたりの臨床推論みたいなものって、教育や福祉領域ではどのように教わっているのでしょうか?どこかに絶対的な正解があるように思っておられる先生が多いように思います。


支援の要点は?自動化、モチベーション、自己認知、スモールステップ

さて発達障害の人の弱点は自動化(熟達)だそうです。
まさに発達するのに個別の支援が必要な障害ですね。
学び方としても多数派の定型発達者とはちがうやり方で、発達障害に特化した課題を少しずつ、毎日長期に渡りトレーニングする事が必要ですが、学校の通級だけでは頻度が不足しますので、そこをどう担保するか。
まさにラーニングディフィカルティ、ラーニングディファレンスの発想ですね。
ここでいちばん重要なのは意欲(モチベーション)であり、イヤイヤやっても決して熟達しません。
いかにモチベーションを育て、支えるかが重要で、いかに意欲を引き出すかが、指導者の責任となります。
特にひらがな、カタカナの読み書きまでは丁寧にスモールステップで・・。

うまく熟達(自動化)することができると他の作業や処理を並行して実行できワーキングメモリーを節約できます。そうするとますます発達します。

人間誰しも凸凹はあります。凸凹はあるし残ってもいいのですが、特にメタ認知が発達する9〜10歳以降、課題を自覚するとともに課題をカバーする長所も工夫し、ICTなども活用して自分なりに工夫したり、必要な支援を自らリクエストし調達できるようになる事が大事といいます。
そのために選択肢を与え、結果を予測させ、メタ認知を刺激し、よりよい方略に気づかせることも重要です。
能力の自覚は自己肯定感のアップにも繋がります。

また効率的な学習のためにはスモールステップで、必ず一課題一目標ということも強調されていました。
学校教育では、学習にしろ行事にしろ、ねらいを盛り込み過ぎなように思います。だから勉強も学校も嫌いになってしまう人がいるんですよね。
本人の納得をもとに、量を調整して(本人にとって)難しいものは量をすくなく丁寧に。対人関係が苦手な人に集団への適応を強要したり、書き取りが苦手な人にたくさん書きとりをさせるのは逆効果です。

そして知的発達の遅れがあっても、通常級に適応できる条件として、家庭が生活力を高める指導(自立活動)ができるかどうかというのも一つのポイントだそうです。通常級ではそのあたりはやってくれませんから、一人ひとりの子どもが将来どう生きていくか、そのために何が必要かということを考えていく必要があります。

家庭環境などのアセスメントも大切になってきますね。また知的発達の遅れや凸凹があって通常級にいるのはいじめのリスクになりますので、そのあたりの学校がどうかという見極めていく必要があります。

このあたりの家庭や学校環境のアセスメントツールってないのでしょうか?

ワーキングメモリーを活かす


後半は時間の関係で4つの指標のうち、特にワーキングメモリー(WMI)の話にしぼってお話いただきました。

ワーキングメモリーとは脳内の一時的な作業スペースのことです。
そのワーキングメモリーの問題とは記憶容量が小さい、記憶時間が短い、妨害に弱い、リフレッシュされないなどいろいろあります。
脳内ポストイットが剥がれやすかったり、剥がれにくかったり、ちょうどよくない感じでしょうかね。
ワーキングメモリーは平均的な人でも7±2であり、環境調整やスケジューリングなどを工夫してうまく使う工夫が必要です。
忙しくなるとワーキングメモリーに負荷がかかりますので、社会全体が忙しくなると障害状態になる人も増えそうですね。ADHDに関してはお薬を使用することで改善する可能性はあるようです。

奥が深いぞフォーマルアセスメント

WISCやその他のフォーマルアセスメントの解釈は奥が深くて面白いです。またそれに基づく工夫もいろいろ提案でき、ユニバーサルデザインになるような視覚的提示などもどんどんやるといいかと思いました。
こういった知能検査や心理検査に関しては心理職の方にお願いするのですが、自分でもいろいろな検査をとってみたくなりました。(私は事務処理能力が乏しく、不注意が多いので、きっちり検査をとるのは絶対に苦手な領域ですが・・)

また教育が主催して、こういう研修をすることで特別支援に関わる先生方が皆でスキルアップし、共通の知識や認識をもって当たれるようになるのは、いいなあと思いました。
また、医療や福祉ともこのあたりの連携がこなれてくると医療の役回りというのももっと絞られてくるのかと思います。

時間軸、空間軸を引いた俯瞰的な立場で、発達特性や二次障害、家族関係、情報集積、つなぎなどの役目を医療が担うのはいいと思うのですが、読み書き計算などの学習障害は教育でお願いし、後方支援にまわりたいところです。

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