動機と学習スタイルに注目しよう

教育や、診療においては相手のモチベーションと学習スタイルを考慮した関わりが大事になってきます。
これらをどう扱うかというのは私の最も関心のある領域でもあります。



モチベーション(動機)に注目する


学ぶために、生きていくのに最も重要なのは何といってもモチベーション(動機)でしょう。

モチベーションは人のすべての活動の原動力です。しかしこれまで医療や教育はこのモチベーションということをあまりに軽視してきたのではないでしょうか。

特に発達障害の人は動機(モチベーション)がそもそも多数派の人とは違うということが徐々に理解されるようになってきました。

例えばASDの場合は良かれ悪しかれソーシャルなこと(人間関係)がモチベーションになりにくい、興味関心の幅が狭く深い。そういったASDの子どもの動機を考慮しないで、学校へは行くもんだ、楽しいはずでしょうと押し付けていると「学校ではやりたいことはやらせてもらえず、やりたくないことばかりやらされる」と言わせてしまい不登校にさせてしまうのです。興味の対象がひろがりづらく、好きなものは増えにくい一方で、嫌いなものが増えやすい。その結果、自分で選んだわけでもないのに引きこもらざるをえなくなるというのがバッドシナリオです。

一方でADHDの方は刺激をもとめ好奇心で動き、退屈なことは大嫌いです。刺激が足りず物足りないと自ら刺激をもとめて動く行動を叱責されて自尊心が低下しやさぐれるという悪循環にになってしまいます。ADHDがベースにあり、反抗挑戦症→素行症(非行)→反社会性パーソナリティへと進展するという、いわゆるDCD(破壊的行動障がい)マーチというバッドシナリオです。

こういった特性を治すではなく活かすために、教育でも医療でも本人のモチベーションを知り、支え、興味関心のあるところから出発して、その周辺に活動や学習を提案していくということが基本になります。

依存症の診療でも「動機づけ面接法」などということが行われています。また統合失調症の方の支援の方法論である生活臨床においては人を「志向性」によって分類するということが言われていました。人のタイプを「色、金、面子(メンツ、プライド)」に分類した上で本人のやりたいことを徹底的に支援するやり方です。

イロカネメンツも世俗的なモチベーションといえますが、子どもたちや発達障がいの方とか変わっているともっとプリミティブ(原始的)な、好奇心や、刺激を求める、注目を集めたい、困っている人を放おっておけない、感覚や身体を動かすのが好きなどのモチベーションもあります。ちなみに私の場合はイロカネメンツへの興味は薄く(そこそこ満たされているからかもしれませんが)、モチベーションは好奇心が5割、シンパシーが3割、注目が2割くらいですかね。

それぞれの人のモチベーションに注目して、そこを支え、広げていきたいところです。

学習スタイルを考慮する


さてモチベーションを理解した上で次に考えるべきは学習スタイルです。

様々な人と関わっていて人の頭の使い方、情報の入室力、学び方は本当に人それぞれだということを実感します。
世界のことを学び生きていくために自分にあった学習スタイルを見つけることはとても大事です。学習スタイルは発達特性とも大いに関連がありますが、視覚障害や聴覚障害などを考えると想像しやすいかもしれません。
しかし、そこまででなければなかなか想像しにくいところではあります。視覚型、聴覚型、体得型か。また経時処理型、同時処理型か、ワーキングメモリを考慮した方法などいろいろあります。知能検査をはじめとした適切なアセスメントをおこなうと、試行錯誤をする時間をショートカットできます。

しかし、学校によっては発達障害や学習障害と診断され特別支援教育や通級の対象にならないと、先生のいいと思う学習スタイル、多数派の学習スタイルを配慮のないまま押し付けられてしまうこともあるようです。視覚聴覚を同時提示するなど多様な学習スタイルに配慮する先生も増えてはきていますが、そういったこともなく合わない学習スタイルを押し付けられると楽しいことも内包されているはずの学び自体が嫌いになってしまう危険性もあります。

学校の現場でそのノウハウの蓄積はこれからでしょうが、ゲームや、Youtube、学習塾や予備校、成人の学習にヒントがいろいろあるように思います。
今の時代、メディアは人の注意や注目を、いかに獲得するかを競い合い、頭を絞っています。ネットでは、短い文章、テンポよく編集された動画や音声などさまざまな方法でアプローチしてきます。ゲームなどはさまざまなモチベーションに対応して、課題報酬が細かく設定されハマるように作り込まれています。こうなってくると本人のモチベーションや学習スタイルを考慮していない押し付けの勉強は太刀打ちできないでしょう。
教育現場も、これらから学ぶこともおおいのではないでしょうか。聞いたり、書いたり、写したりということが苦手な子も、当初からタブレットやPC、スマホなどのツールもうまく使うと楽になる子も多いのではないかと思います。

公教育でも低学年のうちから学習スタイルにあわせた教え方や学び方を配慮してくれればいいのになあと思います。

自分の場合は?ながらで耳から。


私は受験をのときに学習スタイルを模索して和田秀樹氏の「書きなぐりノート術」にお世話になりました。
カルテは手書きだと書きなぐりですし、来談者と一緒にホワイトボードに書きながら整理していくスタイルです。
大まかな流れをつかむのは得意な一方、細かな数字やまとめは苦手で、数学などは複雑な計算問題などなると転記などからのミスが絶えませんでした。好きだった世界史の勉強と称して、歴史小説を読みまくり、受験に失敗しました。世界史はいつも100点だったのですが^^; 受験科目は世界史だけではありません。バランスが悪すぎました。

あふれる情報の中から効率的に情報収集するには、自分の困り事や、患者さんの困りごとなどを考えながら情報収集をすることです。そうすると脳の探索機能が活性化しているので、必要な情報が向こうから飛び込んできます。なんとかいい方法はないかと解決を求めているから理解力も上がしいろいろ関連付けて考えることもできます。

学習には自分の場合、ながらでやること、耳を使うこと、予め必ずアウトプットをする予定をつくっておくという学習スタイルが自分に向いているようです。
昨年から新型コロナでリアルな集会が難しくなり、さまざまな講演会や勉強会、学会などもオンラインになり、オンデマンドでの配信もなされるようになりました。それを車での通勤中や、家事をしながら、運動したり、パソコンでも作業的なことをしながら聞いています。

このやり方なら、興味のど真ん中ではないことも小耳にはさみながら情報を得ることができます。そうして興味をもったものをあらためて調べたり本で読むと頭にはいってきやすいです。

今の時代、時間と空間を確保して、じっくり本に向かい合うということはなかなか難しくなりました。
また本屋で買ってその日がざっと読む一番のチャンスで、そのチャンスを逃すと積ん読になってしまいがちです。
寝る予定の時間がきても眠気が来ないときにはスマホやパソコンを開いてネットをだらだら見るのではなく、積ん読しておいた本を読む時間にあてています。


診療においても

診療では、まず生存と安全の土台を整えた上で、それぞれのモチベーションと学習スタイルをともに探っていくスタイルを意識しています。ですので初診でも再診でも、「楽しめていることはありますか?」「どういうやり方が楽ですか?」というようなことを聞かせていただくことが多いと思います。
こちらからご提案させていただくことはありますが、決して押し付けることはありませんのでご安心ください。




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