自発性、相互理解、共好(ガンホー)。オードリータンと台湾のIT、教育、政治

コラム

いろいろ背負って溜め込んだものかあら身を軽くしようと断捨離をすすめています。
本はなかなか手放すのが大変なのですが、買ってはみたけれど積読のままで、読めていなかった本、読みかけて止まっていた本を、手放す前にざっと読んだりしています。

さて、昨年刊行されたこの「オードリ・タン デジタルとAIの未来を語る」という本も読みかけてとまっていた本でした。

インタビューをもとにした翻訳で、翻訳がこなれておらず日本語にない中国語の概念なども漢字もそのまま出てきたりして・・なんとなく読みにくかったのですが、あらためて読むととても興味深い内容でした。

オードリタンと台湾のデジタル革命



今、東アジア諸国で最も民主的でインクルーシブ、オープンかつフラットな社会・政治体制なのはおそらく台湾でしょう。
歴史的にも地政学的にも政治的にも実に興味深い国であり、テクノロジーの活用、民主主義、教育、どれをとっても低迷する日本のかなり先を行っているように思います。

その躍進する台湾のシンボルともなっているのが若きデジタル担当、オードリータン氏です。

オードリーは、幼稚園ごろから学校教育というものはあわず、いじめなどもあり小学を3回変わり、父について1年間ドイツで暮らしたこともあったようです。
中学をこっそり中退し(校長先生が味方についてくれたそうです)、15歳で起業、18歳で米国に渡り、自分でネットを通じて世界中の人とつながって勉強し、さまざまな人と対話をしてデジタル技術、政治、哲学を深め、実践してきました。

ITでも世界的異才で、W3Cなどのインターネットのルールの取り決めや、自然言語処理の研究、Siriの中華圏のローカライズなどにも関わってきました。
トランスジェンダーのセクシャルマイノリティでもあります。

台湾政府のデジタル担当政務委員となってからは新型コロナにまつわるマスクの不足などの諸問題もfast、fair、fanでシビックハッカーの力を借りて素早く解決、改善しました。

彼のあらゆる活動はひたすらオープンでインクルーシブ。
インクルージョンや寛容の精神はイノベーションの基礎になるのだといいます。
デジタル技術は誰でも使えることが重要で、高齢者に使いにくいものであれば改良すればいいといいます。
日本がイノベーションが起こりにくいのは不寛容な社会だからなんでしょう。

オープンに共創するネットの空気を社会に

オードリーのオープンでインクルーシブな価値観はネットのオープンソースのコミュニティから得たもののようです。
世界中のみんなで一緒になってオープンの場でスピード感をもって楽しく開発をすすめていく、Linuxのプロジェクトなど、オープンソース界隈の価値観、運動は、楽しさと公を共に志向しており、未来的だと思います。
以前に読んだリーナス・トーバルズの本。「そればぼくには楽しかったから(Just for fun.)」思い出しました。
儲けようとか抜けがけようとかそういうのではなく、ただ楽しかったからやっているのが、みんなの役に立つ。それも嬉しい。
そういう人が世界を豊かにしていきます。
ITはアイデアや技術が汎化しやすいですが、あらゆる商いも本来はそうあるべきなのでしょう。


タンは知を共有するプロジェクトグーテンベルクを中華圏で使えるようにするプロジェクトに取り組んだことでこの価値観を知ったといいます。

そんなタン氏が今取り組んでいるのは、社会的課題のオープンによってたかって解決する仕組みづくり、SDGsや、自助(交換経済)、共助(相互扶助)、公助(政府、再配分)の間にできる、いわゆるペストフの三角形の隙間をデジタル技術もフル活用して共創で解決していくことです。





この本の中では、日本の哲学者である柄谷行人(からたに こうじん)氏が提唱する交換モデルX(オープンでかつ無償の交換を行う)の概念も紹介されていました。



ペストフの三角形に置き換えると

Aは家族や宗教、地域のコミュニティなど(共助)
Bは国家(公助)
Cは市場ですね(自助)

交換モデルXは、科学をはじめとする学術の世界や、知識の交換がその代表でしょう。
しかし、知らない人との間のオープンかつ無償の交換では「どのようにして信頼を担保するか」を解決しなければなりません。

オープンで広めてほしいのに、不本意な使われ方をしたり、勝手に特許取って囲い込み商売にするなどのことがおこらないようにということですね。

デジタルで民主主義を加速させるために

では、その信頼はどうやって担保していけばよいのでしょうか。
そのためには「公」ということが市民のなかで広く共有されていく必要があると私は思います。
大事なことは医療や教育、政治、ネットインフラなどの社会共通資本が市場原理の中で強欲資本主義の今だけ、金だけ、自分だけの連中に食い荒らされないことも大事です。

そのためにタンは政治も間接民主主義と直接民主主義の間をうめるツールとしてICTをフル活用して民主主義を力強く推進します。

台湾でPDIS(パブリック・デジタル・イノベーション・スペース)というプラットフォームと、PO(パーティシペーション・オフィサー)という職務をつくりました。
そして「2ヶ月以内に5000人が賛同した場合には、必ず政府が政策に反映する」というルールができたそうです。
声を上げる人が増える仕掛け、少数者の声をすくい上げる仕掛け、政府とも双方向の対話を促す仕掛けです。
彼がやっていることは、ひたすらデジタル技術をつくった対話の場の仕組みづくりなんだなと思います。

子どもが興味をもったものを破壊しないようにする

今やインターネットや情報技術も洗練され、学び方も多様になってきています。
教育に関して最も重要なのは「必ずこうしなければいけない、これを勉強しなければいけない」と考えず、特定の方向性を設定せずに学ぶこと、そして「いかに好奇心を持つかということで、子どもが興味をもったらすぐに励まして背中をおしてあげることだといいます。
すべては学習をおこなう本人次第です。
様々な学習ツールを利用して学ぶ、生涯にわたる「学習能力」が重要になります。
子どもが興味をもつものが親の望んだ職業と合致するとは限りません。
下手に興味のないものを押し付ければ両方への興味がなくなってしまうかもしれません。
親の干渉で子どもの関心を破壊してしまえば、結局子どもの成績はよくならないでしょう。

そしてタンは「興味や関心が見つからないのに大学に進学しても意味がない」とまで言い切ります。

そして、台湾ではそのデジタル時代の素養として自発性、相互理解、共好の3つを大事にした教育を推進しています。

共好(ガンホー)とは日本語にはない熟語ですが、中国語でネイティブアメリカンのGung Hoへの当て字からきた言葉で、共同で仕事する。お互いに交流して共通の価値を探し出すことを意味します。
相互理解のプロセスにおいて相手には相手の価値観があり、自分には自分の価値観がある。それを常に頭の片隅において、どうやって皆が受け入れることのできる価値観を見つけ出せるのかを考えながら共同で作業するという言葉だそうです。

そしてデジタル時代にはプログラミング思考、デザイン思考も重要です。
ただ科学技術は既存のプロセスを最適化する、より低コストで実行できるようにするといった部分には貢献するでしょうが、サイエンスやテクノロジーで解決できない問題に対処するためにはアート思考(美意識)を養う必要もあるといいます。

教養ってやっぱり大事です。タンは教養人だわ。

このあたり新しい価値観を持つ人は、日本でも若い人たちの中にも増えてきており、日本の教育界でも言われるようにはなってきていますが、まだまだ旧来の価値観の教育の中で旧来の価値観に縛られてスポイルされてしまう若者も多いようです。

それでも異なる考え方をする人と交わることのできる対話の場が増え対話の総量が増えることで、自分で普遍的な価値観を見つけることができる人がきっと増えてくるとおもいます。

そして競争原理を捨てて公共の価値を産み出すことを大事にする価値観は、これからの時代の主流になってくるのではないでしょうか。

与党(自由民主党)は由らしむべし知らしむべからずが染み込みすぎていて自由と民主主義を本音のところでは嫌っているように思えます。しかし、これらが市民に根付くと、政治に参加する国民(市民)が増え、今の日本の金権、利権、恫喝政治のようなことは出来なくなり、逆パノフティコン社会が可能になるだろうなと思いました。

ところで、今の日本のデジタル担当相って誰でしたっけ?💦

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